さんぽが大好き
menu menu menu menu menu menu

■ ブナの樹の親子


  都会から数百マイルも離れたところに大きな森があります。
  その森の一番奥深くに一本の大きな木が立っていました。
  ブナの木です。
  ブナの木は、何百年も前からその場所に立っていました。

 

 

  いったいいくつの季節が通り過ぎていったことでしょう。
  春、やわらかい陽射しとともに、新しい命が生まれます。
  夏、鮮やかな色の蝶がブナの木に舞い上がります。
  秋、黄金色の衣服が風とともに舞い踊ります。
  冬、しんしんと、静かに雪がブナの木を包み込みます。

 

  ある日、一羽のカラスが飛んできて言いました。
  「やあ、こんにちは。だいぶ長い時間飛び続けたんで疲れたよ。 
  君も早く逃げないと大変なことになるよ」。
  「え?どうしたの?」。ブナの木は答えました。
  「知らないの?森が大変なんだよ。大嵐が来るんだよ」。
  そういって、一呼吸置いてからカラスは行ってしまいました。

 

  ブナは驚きました。でもどうすることもできません。
  次にやってきたのは狐でした。
  「やあ、ブナさんこんにちは。君は逃げないの?早くしない 
  と嵐が来るんだよ」。
  「うん。ぼくは動けないからね。ここにいるよ」。
  「そうか。じゃあ無事を祈るよ」。
  そういって去って行ってしまいました。

 

  近頃はこんなことがよくあります。
  世界中の森が大変なことになっているのです。
  ここ数年の間に仲間達がどんどん倒されてしまったのです。
  それでもブナの木は頑張って立っていました。

 

  やがて、ものすごい勢いで嵐がやってきました。
  嵐は、周りの土を盛り上げ、木々をなぎ倒し、多くの川を氾濫
  させました。
  森はあっという間に水浸しです。
  嵐の前ではひとたまりもありません。
  強風にあおられ、手足が折れそうです。
  それでもブナの木は、全身に力を込めて根を張り踏ん張りました。

 

  その時です。
  どど〜んという音を立てて、とうとうブナの木は倒れてしまいました。
  「ぼくも仲間のところに行くんだな」。
  そういってブナの木は死んでしまいました。

 

  やがて嵐は去り、再び森は静けさを取り戻しました。
  でもそこにはもうあのブナの木はありません。
  横たわったブナの木があるだけです。

 

  太陽の光が横たわったブナの木を照らしました。
  やわらかい風が、横たわったブナの木の上を通り過ぎました。
  小さな鳥が、横たわったブナの木の上で休んで行きました。
  いつからか、木ねずみの親子の棲家となりました。

 

  そうしてどれくらいの月日が経ったでしょう。
  ある日、再び森に春がやって来ました。

 

  横たわったブナの木の上に、本当に小さなブナの子供が生まれ
  ました。
  まるで母親の腕に抱かれているかのようにその命は芽生えたの
  です。
  優しい光が、ブナの樹の親子を包んでいました。

さんぽ日記
tomochanelcafe
buonobuono